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調と中男作物

 田租と出挙は国司がいる国衙(地方庁)に納める地方税であるから、王権は畿内の朝廷に直接納める国税も創設した。この場面では共同体において下位者から上位者へ奉仕する “ミツキ”の 慣行があることを元に「調」を定立し、成年男子の負担とした。
 貨幣制度が発達しておれば、いくばくかの銭を徴収するであろうが、それが叶う状況にはないから、軽くて高価な布帛(繊維品)の一定量を成年男子一人宛に割り当てた。「正調」(正規の調)は正丁(21~60歳の男性)の一人に付き、絹・絁(あしぎぬ)8尺5寸(≒2.6m)、絹糸8両(≒300g)、絹綿1斤(≒600g)、麻布2丈6尺(≒7.9m)のどれかひとつを貢納させた。次丁(61歳以上の男性と正丁の障碍者)はその半分、少丁(17~20歳の男性)は正丁の4分の1とした。
 畿内諸国は朝廷や寺社の造営などに動員されることが多いため、半減された。産品は地元の負担によって宮都の大蔵省主計寮へ運ばせ、中央官人の給与などに充てた。

 実際のところ誰でもが布帛を作れるわけではないから、養老令(7018年)では「調雑物」34種のうちの1種でもいいこととし、鉄・鍬・塩・鰒(アワビ)などの産品を対象とした。もともと神に初物を献納する「贄(ニエ)」の慣行があったから、水産物などを納めさせることに抵抗はなかった。和同開珎(708年)が発行されると、流通を促すため、畿内などでは銭での納入も認めた。
 「調」は個人に割り当てる人頭税であるが、布帛の生産や水産物の調達は個人で行えるものではないから、郡司など地域の有力者が中心となり組織的に対応した。布帛については技術の未熟が問題となり、711年に中央から「挑文師(あやとりし)」が派遣され、技術指導を行ったとの記録がある。
 それでも足らざる処を補填し、かたがた技術の向上を図るため、717年に少丁(17~20歳の男子)を中男と改称し「中男作物」という税目を設けた。「調」の一部を停止したうえで、彼らの集団労働により朝廷が必要とする物品を作らせた。

「延喜式」の「巻24 主計上」には、「調」と「中男作物」について、各国が貢納すべき産品の品質と数量が示される。四国4カ国に対する割り当ては、次表のとおり。表中、中男作物はゴシックで示した。

延喜式 調と中男作物.png

 四国でも「調」は型どおり繊維品が中心だが、水産物も小さくはないウエイトを占める。阿波では紙や苫(とま)、讃岐では陶磁器・木工品など工芸品のウエイトも大きい。「中男作物」では、圧倒的に海藻・魚・貝類などの海産物の乾物が重視される。これに油・紙などの林産品が加わり、伊予では砥石の「砥」もある。
 これから当時の各国の農産物、水産物、工産品などが浮上する。各地は産品の品質に磨きをかけたであろうから、今日に到る特産品に成長し、我が国の「ものづくり」を涵養した。

 表中の品目で、わかりにくい産品の説明を『訳注日本史料 延喜式』(虎尾俊哉 集英社 2000)によって、次に示す。 
 両面;両面織りの錦。2色の色糸を用いて表裏両面に模様が出る二重織りの織物。両面・綾・羅は高級品で、貢納国は阿波、讃岐、伊予を含め11か国に限られる
 絢(ク);上糸4両、中糸5両などを1絢とする (延喜式の記述場所により異なる)
 羅(ラ);網目状の透けた薄い織物
 綾(アヤ);綾の文をもつ織物の総称
 窠(か);穴or巣の意。瓜を輪切りにしたような模様があるもの
 薔薇(ショウビ);コウシンバラの模様があるもの
 帛(ハタ);上質の絹織物

 亀甲;亀卜に用いる亀の甲羅。年50枚の制限があり、阿波・土佐・紀伊の中男作物などで調達
 鰒;鮑(アワビ)に同じ。食用にし、あるいは神饌とした
 堅魚(カツオ);阿波・土佐・駿河・安房・相模・志摩・紀伊・日向にある
 腸漬(ワタヅケ) ;塩辛の類か。阿波・筑前・肥前の中男作物にある
 鮨(スシ) ;なれずし 酢につけた肉 
 乾鮹(ホシダコ) ;乾した蛸、肥後と讃岐からの貢納品
 楚割(スワヤリ) ;魚肉を細く割き、乾して固くしたものを削って食べた
 貽貝(イガイ);カラス貝orムール貝
 年魚(アユ) ;どこの川でも取れ、値段が安く保存食にされた。押年魚、鮨年魚、煮塩年魚、煮乾年魚、火乾年魚、漬塩年魚、醤漬年魚などとした
 海藻(メ) ;海藻の総称であろうか、ワカメなど緑褐色の海藻
 凝海菜(コルモハ);テングサの古称、トコロテン
 雑海菜(オモナ) ;伊予国のみから貢納

 黄檗(キハダ);ミカン科の落葉高木。内皮は黄色の染料や薬用
 苫(トマ);スゲやチガヤのむしろ
 閇彌(ヘミ)油;ヤブデマリかイヌガヤ 灯油用か、阿波と肥前から貢納
 槾椒(ホソキ) ;ハジカミの一種であるイヌザンショウ
 脯(ホジシ) ;獣肉の切り身を乾したもの、乾し肉

 瓫(ホトギ);火にかける煮沸用の土器、土師器であろう
 瓶(カメ);首が長く口の小さい器、注ぐのに用いる
 盤;平たく浅い容器、ある程度厚みがあり脚付きが多い
 大高盤(オオタカサラ);裾が広がり、高台をつけたものか
 麻司盤(オケサラ);サラよりオケに近い厚みのある容器
 椀;深く丸みのある容器。
 埦;蓋があるお椀でお供え用のものか
 鉢;皿よりは深く、椀よりは浅く、上部で広く開く
 齏坏(アエツキ);和え物を載せる器。斎物用の小さな杯
 筥坏(ハコツキ);円柱形の杯。宴会で使う
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