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邪馬台国は阿波にあった?

 徳島県(阿波)には古めかしく、他の地域では見つからない神社がたくさんあります。これをどう考えればいいのでしょうか。
 徳島県の郷土史家である大杉博氏は著書の『邪馬台国はまちがいなく四国にあった』(たま出版)のなかで、これは邪馬台国が阿波にあったことの証左のひとつであると書きます。
 この本によると、記紀に記された日本の神話が展開したのは阿波を中心とした四国であったというのです。高天原も、天孫降臨の地も、天岩戸も、出雲も、葦原の中ツ国も、すべて阿波にあったとし、それぞれの場所が具体的にどこであったが明らかにされています。
 また日本書紀にいう饒速日命(にぎはやひのみこと)の畿内への天下りは、四国の剣山山地から河内の石切神社のあたりに天下ったのだといい、イワレヒコノミコト(神武)の東征は3世紀末ないし4世紀初頭のことで、それまでは阿波でたくさんの古墳が造られていたのが、その時期以降は突然に畿内で古墳が出現することになるとします。
 大杉博氏によると、邪馬台国は四国の山上にあり、魏志倭人伝にいう卑弥呼は日本神話における天照大神に当たります。彼女の死に際して造られた古墳が、すでに前出の項で取り上げた「天石門別(あまのいわとわけ)八倉比売神社」の背後にある前方後円形の墳墓です。海抜116mの高さにある柄鏡型をした前方後円形の墳墓で、その後円部と思われるところに青石で五角形に小口積した祭壇があります。周辺の山麓一帯には、陪塚を含め200あまりの古墳群もあります。
 天石門別八倉比売神社は、徳島市郊外の「阿波史跡公園」の傍らに鎮座し、もともとは「杉尾山」そのものをご神体としていました。日本最古の神社とされる奈良県の大神(おおみわ)神社が三輪山そのものをご神体とするのと同じように、古い形式の神社です。大神神社は、いまも三輪山をご神体としますので「拝殿はあるが本殿がない」ことで知られます。(大神神社は、神仏分離が行われた明治期に本殿を造ろうと計画しましたが、当時の教部省が反対したのでいまも古い神社形式が残されたままです。いっぽう阿波の天石門別八倉比売神社は、江戸時代に神陵の一部を削って小さな本殿が造られています)

 閑話休題、このような古式に富んだ尋常ではない阿波の神社事情をどう考えればいいのでしょうか。大杉博氏など邪馬台国阿波派の皆さんは「これすなわち邪馬台国が阿波にあったことの証左である」と主張しますが、これを事実と考えていいものでしょうか。
 邪馬台国がどこにあったかに関連しては、これまで我が国の数々の先学が積み重ねてきた考古学や文献史学の成果があります。これらをひと通り聞いたあとでは、阿波説はいかにも突拍子にみえて、ただちには賛意を表せそうにありません。
 それでは阿波の神社事情の特異性が何によるのでしょうか。その答えは、古代にこの地に移ってきた忌部一族の所業と考えればいいのではないでしょうか。これまでに示してきた他国には例を見ない神社事情の多くは、畿内から移ってきた忌部氏の故地である、いまの吉野川市とそれを取り巻く周辺にあります。なかには元来が忌部神社の摂社として創始されたと伝えられるものもあります。
 現在、一帯にある歴史遺産をまとめて「忌部の里」として売出そうという努力が地元の人びとによって重ねられています。遠いむかしにもこの地に居住する忌部氏につながる人びとが、何らかの契機において地域づくりに取り組む一環として、たくさんの神社などを造営したのではないでしょうか。
 忌部氏はもともと中臣氏と同じく皇室の祭祀を担当した一族でした。しかし中臣氏が台頭するに及んでしだいに往時の威勢を失ったとされます。忌部氏の事跡が忘れられようとすることに抗して、天地開闢から天平年間(729年-749年)の間における忌部氏の事績を、斎部(いんべ)広成がまとめて平安時代に『古語拾遺』を著しまし、それを天皇に献上しました。
 忌部氏は天照大神が天岩戸隠れをした際に、岩戸から御出座を願う際に活躍した天太玉命に連なる子孫とされます。記紀(古事記と日本書紀)に比較して『古語拾遺』には天太玉命ら忌部氏の祖神の活躍がより豊富に記されています。その情況を立体的に阿波の地で再現しようとして、阿波にたくさんの関連神社を作り、さまざまの儀式を行ったのではないでしょうか。
 いわば自分らの祖先が行ったことの追体験とデモンストレーションです。現代において文化遺産のミニチュアワールドを造ることが世界の各地で流行しているのと同じ発想ではないでしょうか。その努力の痕跡が、いま阿波に残っているのではと考えられます。



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