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◆グローバリゼーションについて◆

現下の経済情勢において、もっとも基本的な問題はグローバリゼーション」でしょう。この点について少しまとめて書いてみましょう。
 最近、インドの知識人によって、グローバリゼーションについて評論した邦訳本の2冊が相次いで出版されました。ひとつはノーベル賞を受賞した経済学者として知られるアマルティア・センによる『グローバリゼーションと人間の安全保障』と題する本で、2009年2月に日本経団連出版から山崎直司解題・加藤幹雄訳によって出版されました。もうひとつはインドのジャーナリストであるナヤン・チャンダによる『グローバリゼーション 人類5万年のドラマ』という書物で、2009年3月にNTT出版から友田錫ほか訳によって出版されました。
 双方に共通しているのが、グローバリゼーションという言葉をただ単に現代の資本主義で問題となっている「市場原理が世界全体を覆う」という事実だけで捉えるのではなく、人類が歴史的に発展する過程で必然的に歩んできた道であると捉えていることです。これについて、二人の所説に違いがないようです。
 アマルティア・センは「グローバリゼーションは人類の世界遺産である」といい、「グローバリゼーションは人類の歴史を通じる相互作用であり、必ずしも西洋化とは限らない。前1000年紀の初頭には西洋に対して東洋の影響力が増大して西洋が抵抗を試みた時代があった」と指摘します。たとえば「古代サンスクリット語が起源であるマントリという言葉がマンダリンに転化して中国のほか、世界中で使われるようになった」などを西洋発ではないグローバリゼーションの一例としてあげています。
 ナヤン・チャンダは、この視点についてもっと徹底しています。アフリカ大陸で誕生した人類が5万年前に出アフリカを果たして以来、ユーラシアはもちろんオーストラリアやアメリカ大陸に拡散し地球全体に広がりましたが、この事実こそがグローバリゼーションの始まりであるとし、その後も人類のさまざまな活動が地球域に拡大していった事例を豊富に述べます。邦訳で上下2巻にわたる膨大な分量の大部分は、その実例の記述に費やされています。
 遺漏があることを承知で、そのいくつかを紹介すると、シルクロードやアラブ商人などが活躍した「世界交易」を通じてはもちろん、世界宗教の「布教者」による思想の交流を通じ、ユーラシア大陸の東西にまたがるさまざまの知識の交流を通じ、あるいはときどきの強国が近隣諸国に軍事的な征服を繰り返したり帝国主義的拡大を図ったりすることを通じ、さらには奴隷貿易や細菌の世界的な拡散を通じてなどによって、人類はグローバリゼーションを進めてきたというのです。
 両著者のこれらの指摘から含意されるものは「グローバリゼーションは人類歴史の必然の方向であり、押し留めたり後戻りをしたりはできない」ということでしょう。地球上の人類は、その接触と交流を通じてこれまでも一体化してきたし、今後もこの潮流は必然であるということでしょう。
 この2冊の本におけるさまざまの事実の指摘について、とくに異論があるわけではありません。しかしこうも広い視野でグローバリゼーションを説かれると、いま差し迫っている「現代資本主義が直面しているグローバリゼーションに起因する諸問題」が、何だかはぐらかされてしまいそうな気がするのは私だけではないような気がします。

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アヨアン・イゴカー

>「現代資本主義が直面しているグローバリゼーションに起因する諸問題」が、何だかはぐらかされてしまいそうな気がするのは私だけではないような気がします。

はぐらかされてしまう=問題の本質をついていない、分析ができていないということではないでしょうか?

by アヨアン・イゴカー (2009-08-23 21:46) 

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