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東南アジアの島嶼国家

「民族統一や文化的成熟に向けて、どれほどの達成をなしえたか」の程度が、近代文明を受け入れて工業化にまい進するときに、国ごとの違いとなりうるのではないか。前項の終わりに、そう書きました。そうであれば日本と同じような島国の方が、それを達成しやすいのではないかと考えられます。近隣諸国からの攻撃や干渉を受けにくいからです。
 実際にもカンボジアのアンコール文明が、国境を接する東側のタイおよび西側のベトナムからくりかえし攻撃されて衰退に向かったことをすでに書きました。そのような干渉を受けにくい島国では、より順調に近代文明を受容できる条件下にあったのではないか。
 そうとすれば、島嶼諸国のGDP水準の相対的な高さに反映されているのではないでしょうか。そう考えて東南アジアにおける島嶼国の国民一人当たりのGDP額を調べ、前項で書いた半島国家のものと比べてみましょう。
 その結果は次のようになりました。(資料の出所は、前項と同じものです)

 シンガポール 32783ドル マレーシア 6455ドル インドネシア 1770ドル フィリピン 1523ドル スリランカ 1365ドル パプアニューギニア 974ドル

 このなかでマレーシアは半島にありますが、細長く南方に伸びたマレー半島に位置しており、インドシナ半島諸国とは隔絶しています。歴史的にも7世紀ころから15世紀にかけては、いまのインドネシナで強盛をしめしていたシュリーヴィジャヤ王国(スマトラ島を本拠とした)やマジャパヒト王国(ジャワ島を本拠とした)の支配下にあり、島嶼国家と一体化していました。マレー半島に本拠をもつマラッカ王国が成立したのは、15世紀のことです。したがってここではマレーシアを島嶼国家とします。
 シンガポールはマレー半島の南端にある小さな島に位置しますから、島嶼国家とすることに異論がないでしょう。
 一般的にも「インドシナ半島諸国」は、ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーの5カ国を指し、マレーシアやシンガポールを含まないのがふつうです。
 このように比較してみると、前項に掲げた半島国家に比べてこの項に掲げた島嶼国家の所得水準が総じて高いことが明確です。
 シンガポールは人口わずか4.4万人と国全体が都市的ですから、高い所得水準を達成できているのは当然といえます。マレーシアが、ルック・イースト政策「東方の日本に学べ」の掛け声のもとで工業化にまい進してきたことはよく知られています。その他の島嶼国は工業化においてめざましい成果をあげてきたという印象があまりありませんが、意外にもタイを除く半島国家より所得水準が高くなっています。
 東南アジア諸国は、半島国家であれ島嶼国家であれ19世紀から20世紀半ばにかけて、(タイを除けば)すべての国々がヨーロッパ列強の植民地支配を受けました。その面では、状況がよく似ています。(タイが半島国家でありながらひとり高い所得水準を達成しているのは、植民地支配の痛手が経済構造に根強く残っていることを窺わせます)
 第2次大戦後に、ベトナム、カンボジア、ミャンマーなどではきびしい内戦を経験しましたが、これも半島国家ゆえのまとまりにくさが原因のひとつと考えられます。 
 かくして近隣国との間において、陸地で国境を接することから生じがちな摩擦や抗争が、民族のエネルギーを大いにそぐらしいことが看取されます。かくして近代文明を受容し順調に工業化を進めるには、近世段階において民族としての一体感を成熟させ、均質な国民が協調して協力できる体制を築けるように準備されていることが緊要と確認されます。
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クメール王

一人当たりDGOは、タイ>インドネシア・フィリピンです。
ポルポトが支配したカンボジアは、貧しいです。

都市国家は強い、シンガポール(金融)・ブルネイ(石油)
世界の工場は、中国からインドネシア・ベトナムへ移りつつあります。
大穴はフィリピンで、工業化を飛ばして(英語を生かし)サービス業です。
※コールセンター・海外メイド、いづれは日本人の老人ホームかな?



by クメール王 (2016-10-15 00:33) 

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